臓器の機能不全を防ぐために投与されるミラクリッドの効果や副作用を詳しく解説します。また使用をオススメできない人や使用上の注意についても解説していきます!

日高 吉明
九州保健福祉大学薬学部
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目次 必要な場所から読んでください
ミラクリッドとは?
ミラクリッドは、持田製薬株式会社が製造と販売を行っている注射用の医薬品です。
様々な酵素の阻害作用を有しており、急性膵炎や急性循環不全の治療に用いられます。
ミラクリッドの成分であるウリナスタチンは、ヒトの尿中から抽出、精製された分子量約67,000の糖タンパク質です。
分子量67,000というと、ヒトの身体の中にあるタンパク質の中では、大きい部類になります。
ウリナスタチンは、私たちの身体の中で働いている酵素に対して、阻害する作用を持っています。
1909年には、膵臓から分泌される消化酵素であるトリプシンを阻害する物質が、ヒトの尿の中に存在することは明らかになっていました。
その後の研究で、その物質がウリナスタチンであること、そしてウリナスタチンがその他の消化酵素の働きも阻害することが分かりました。
その後の日本での研究で、ウリナスタチンが抗膵炎作用並びに坑ショック作用を有すること、急性膵炎および慢性再発性膵炎の急性増悪期に対して優れた治療効果を示すことが明らかになりました。
ミラクリッドはこんな時に使用します
膵臓の酵素は、普段は腸で食物の消化を行っていますが、何かのきっかけで酵素が血液中に流れ込むことがあります。
その場合には、心臓や肺などの生命維持に重要な臓器にダメージを受けてしまうこともあります。
一方、ミラクリッドの成分であるウリナスタチンは、膵臓から分泌される酵素の働きを阻害することができます。
ですので、膵臓の酵素が血液中に流れ込んだ時に、その働きを抑える為にウリナスタチンが使用されます。
例えば、急性膵炎の状態が挙げられます。炎症を起こした膵臓からは、消化酵素などの酵素が多量に出され、血液に乗って全身に広がります。
そのため心臓、肺、肝臓、腎臓、消化器官などの臓器にダメージを与えることになり、酷い場合にはそれらの臓器が機能しなくなることもあります。
このような場合に、臓器の機能不全を防ぐためにミラクリッドが投与されることになります。
適応疾患としては以下の通りです。
◎急性膵炎(外傷性、術後、内視鏡的逆行性胆道膵管造影後)
◎慢性再発性膵炎の急性増悪期
◎急性循環不全(出血性ショック、細菌性ショック、外傷性ショック、熱傷性ショック)
ミラクリッドの種類・形状・サイズについて
ミラクリッドには以下の種類の注射薬があります。
◎ミラクリッド注射液2万5千単位
◎ミラクリッド注射液5万単位
◎ミラクリッド注射液10万単位
◎ミラクリッド(注射用凍結乾燥製剤)
ここでの「単位」とは、有効成分のウリナスタチンのトータルの強さのことです。
膵臓の酵素を阻害する強さの合計ですので、この数字が多い方がより多くの酵素を阻害することができます。
発売当初は、「注射用凍結乾燥製剤」という粉末タイプの注射剤のみの販売でした。
粉末タイプですので、使用の直前に注射できるように液体に溶解する必要があります。
ミラクリッドの適応疾患は、どれも病態の進行が急激な疾患で、一秒でも早いミラクリッドの投与が病態の重症化を防ぐために重要です。
そのため、使用の直前に溶解する必要のない製剤の開発が望まれていました。
それを受けて、既に注射液の状態となっている『ミラクリッド注射液』が開発され、緊急時に適した製剤であることが臨床的にも確認されました。
そのため、現在ではミラクリッド注射液が、広く使用されています。
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ミラクリッドの効果・効能
ミラクリッドには以下の効能・効果があります。
急性膵炎への効果
急性膵炎は、ある原因により、膵臓内の消化酵素「トリプシン」が活性化、遊離することがきっかけとなり、様々な消化酵素が膵臓の組織自体を消化してしまう病態です。
その結果、膵臓の消化酵素であるトリプシン、リパーゼ、エラスターゼなどが血液中に流れ出てしまい、全身の各組織に障害を与えてしまいます。
原因としては、
・胆石症などの胆道疾患
・交通事故などの外傷
・アルコール多飲、アルコール中毒
・感染
・膵臓周辺の手術
・内視鏡的逆行性胆道膵管造影などの検査
などがあります。
自覚症状としては、上腹部痛、悪心、嘔吐、圧痛、腹膜炎症状、ショック症状があります。
ミラクリッドは、急性膵炎の際に血液中に流れ出した消化酵素を阻害する働きを持っていますので、ミラクリッドの投与により各種臓器の障害を抑えることができます。
ミラクリッドは、急性膵炎と診断されるとすぐに使われます。
いち早く投与すると効果的なためです。
急性膵炎患者を対象とした臨床試験では、ミラクリッドの投与により、各種自覚症状の改善、臨床検査値異常(臓器の障害の指標)の改善が認められています。
慢性再発性膵炎の急性増悪期への効果
慢性膵炎は、アルコールの多飲(多い量を長期間摂取)や胆石症などが原因で、膵臓の炎症が持続、もしくは繰り返して、その結果膵臓の細胞自体がダメージを受けてしまった状態です。
最終的には、膵臓の細胞が線維化という状態、つまり細胞が固まってしまい機能しなくなります。
なお、膵臓は消化酵素だけでなく、血糖値を下げるインスリンという物質も作っていますので、線維化が進むと血糖値が下がらなくなり、糖尿病になります。
この慢性膵炎の病態の進行の間に、何度か膵臓が炎症を起こすことになりますが、その時には急性膵炎と同様に、数種類の消化酵素が血液中に流れ込み、急性膵炎と同様の症状が起こることになります。
これが慢性再発性膵炎の急性増悪期に当たります。
ミラクリッドはその際に使われ、血液中に流れ込んだ消化酵素を阻害して、症状を改善してくれます。
慢性再発性膵炎の急性増悪期の患者を対象とした臨床試験でも、ミラクリッドの有効性が認められています。
細菌性ショックへの効果
適応上は細菌性ショックとなっていますが、最近は敗血症性ショックと呼ばれる病態です。
重篤な感染症により、全身の炎症が引き起こされ、血圧が低下し、臓器に酸素が供給されなくなった状態です。
この状態が続くと、多臓器不全(臓器が働かなくなること)に陥り、致死的となります。
この時、体内では様々な消化酵素や炎症性サイトカインと呼ばれる物質が放出されています。
感染症の治療、大量の輸液の投与、血圧を上げる薬の投与が基本的な治療方針となりますが、状態によってはミラクリッドの投与が行われます。
様々な消化酵素や炎症性サイトカインを抑えて、状態を改善する目的です。
海外の臨床試験により、敗血症性ショックの患者に対するウリナスタチン(ミラクリッドの成分)の投与により、それ以降の臓器障害の発生率が下がること、人工呼吸管理を行う日数が減ること、入院期間が減ることが示されています。
出血性ショックへの効果
大量の血液や体液が失われた場合に起こるショック状態のことです。
血液が足りずに酸素や栄養分の臓器への供給ができないため、多臓器不全に陥ります。
この出血性ショックの際にも様々な酵素が血液中に流れ出ていることが分かっていますので、その酵素の働きを抑える目的でミラクリッドが使用されます。
臨床試験でその効果が認められています。
ミラクリッドは、出血性ショックのラットの生存期間を有意に延長させること、また出血性ショック時の酸性フォスファターゼという酵素の放出を抑制することが分かっています。
熱傷性ショックへの効果
熱傷(やけど)により大量の体液が失われた場合にも、ショック状態に陥ることがあります。広範囲の熱傷の場合です。
広範囲の熱傷があると、皮膚の機能が大きく損なわれますし、皮膚の下にある毛細血管の状態も変化しますので、熱傷部分から体液や血液が失われていきます。
その量が多くなると、血圧低下や多臓器不全を引き起こします。
この状態が熱傷性ショックです。
ミラクリッドは、この熱傷性ショックの状態にも症状を改善する目的で使用されます。
臨床試験においても動物実験においても、症状改善効果が認められています。
外傷性ショックへの効果
外傷性ショックとは、交通事故や怪我、転落などの外傷が原因となるショック状態のことです。
外傷により臓器そのものにダメージが及ぶ場合、外傷による出血が原因となる場合、外傷による心臓のダメージが原因となる場合があります。
これらの原因の結果、身体の中を循環する血流が低下し、血圧低下や多臓器不全を引き起こします。
この状態が外傷性ショックです。
ミラクリッドは、この熱傷性ショックの状態にも症状を改善する目的で使用されます。
臨床試験においても動物実験においても、症状改善効果が認められています。
急性循環不全への効果
ショックとは、血圧低下を伴う急性循環不全のことです。
循環不全の結果、各組織に十分な血液が供給されずに多臓器不全へと発展します。
原因には、これまでに挙げた細菌性、出血性、熱傷性、外傷性などがあります。
ショック時には、様々な酵素が血液内に流出、もしくは血液内で活性化されていますので、これらの酵素を阻害する目的でミラクリッドが使用されます。
臨床試験において、ミラクリッドは急性循環不全の患者に対して、収縮期血圧、脈拍数、尿量、意識状態などの異常を改善することが示されています。
薬剤師からのワンポイントアドバイス
ミラクリッドは、ショックの原因に対する治療法ではありませんので、原因に対する治療法を行った上で使用する必要があります。原因により根本治療は異なりますが、輸液療法、人工呼吸管理、抗菌薬の投与(感染症の治療)、輸血、熱傷や外傷の外科的処置などが治療としてあります。また、ショック症状が改善した場合には、速やかに投与を中止することとなっています。

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ミラクリッドの副作用
ミラクリッドの使用による、これまでに報告がある副作用は以下の通りです。
ミラクリッドの副作用一覧
主な副作用 | ||
種類 | 0.1%~5%未満 | 0.1%未満 |
血液 | 好酸球増多 | |
肝臓 | AST、ALTの上昇 | |
過敏症 | 発疹 | 掻痒感 |
消化器 | 悪心、嘔吐、下痢 | |
注射部位 | 血管痛、発赤、掻痒感 | |
その他 | 発熱 |
重大な副作用(頻度不明) | |
病名 | 症状 |
ショック
アナフィラキシーショック |
血圧低下、頻脈、胸内苦悶(胸が苦しい感じ)、咽頭浮腫(のどがつまる感じ、物が飲み込みづらい感じ)、皮膚の潮紅(赤くなる)、呼吸困難(息苦しさ)、じんましん |
白血球減少 | 血液内の白血球の減少(血液検査) |
調査が行われた総症例8,710例中、74例に、副作用が認められています。
副作用を全て合計した発現率としては0.8%ですので、非常に少ないと言えます。
ミラクリッドの成分のウリナスタチンは、ヒトの尿中から抽出・精製された糖タンパク質ですので、元々私たちの身体に存在するものです。
そのため、副作用の発現率が少ないと考えられます。
ショック、アナフィラキシーショックとその対処法
ミラクリッドの投与によりショックやアナフィラキシーショックを起こしたとの報告があります。
ミラクリッドを使用する場合は、そもそもショック状態になる可能性が高い病態ですので、副作用か病態の進行によるものか明確に区別ができませんが、副作用の可能性もあるため、副作用として挙げられています。
このため、ミラクリッド投与後は医療従事者が、状態の観察を十分に行うこととなっています。
もし、血圧降下、頻脈などの症状があらわれた場合には、すぐにミラクリッドの投与を中止し、適切な処置を行うことになっています。
入院中に発現する副作用になりますので、これらの処置については医師の判断で行われます。
白血球減少等の血液検査値の異常とその対処法
白血球減少症とは、一般的には、白血球が減少し、血液1mL(マイクロリットル)あたりに3000~4000未満(健康な人の平均は6600程度)になった状態をいいます。
白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスなどから私たちの身体を守る役目を担っています。
そのため、白血球が減少してしまうと、細菌やウイルスによる感染を起こしやすくなります。
白血球減少による直接の症状はありませんが、感染による発熱などが症状として出てくることがあります。
気付きにくい副作用ですので、定期的な血液検査が必要です。
もし、血液検査値の異常が認められた場合には、ミラクリッドの投与を中止して、異常に応じた処置を行うことになります。
処置については、医師が適切な判断をしてくれますので、ご安心ください。
AST(GOT)・ALT(GPT)の上昇等の肝機能検査値の異常とその対処法
AST(GOT)およびALT(GPT)は、肝機能検査値の中で一般的に用いられているものです。
これらの数値により、肝臓が正常かどうかを判断できます。
AST(GOT)は、心筋、肝臓に多い酵素で、組織に障害があると血中に流れ出てきます。
ですので、AST(GOT)が高いということは、心臓(心筋梗塞の場合)か肝臓に障害が起きていることを示します。
一方、ALT(GPT)は、肝臓に多く存在する酵素で、肝臓組織に障害がある場合に血中のALT(GPT)値が上がります。
ですので、肝臓系疾患の診断に有用です。
AST(GOT)およびALT(GPT)の両方が高値で異常を示している場合は、肝臓の障害が考えられるということになります。
またAST(GOT)とALT(GPT)の比率により、肝臓の病態を予測することも可能です。
ミラクリッドを使用する場合は、急性膵炎やショックなど、そもそも肝臓に障害が起こる可能性も高い病態ですので、副作用か病気によるものか明確に区別ができません。
ただ、どちらにしてもAST(GOT)およびALT(GPT)が異常値の場合は、肝臓に障害が起きていることが考えられますので、様子を見ながら治療を進めていくことになります。
医師が検査値の推移などから、ミラクリッドの継続が可能かどうか判断します。
なお、初期の場合は、特別な自覚症状はありませんので、ミラクリッド投与中は、定期的な血液検査が行われます。
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発疹の症状とその対処法
アレルギー反応の一つとして発疹が出ることがあります。
アレルギー反応はどの薬でも起こりえますので、安全性が高いとされているミラクリッドでも起こる可能性はあります。
皮膚に発疹などの異常が見られた場合には、ミラクリッドの投与を中止し、適切な処置を行う必要がありますので、すぐに近くの医療従事者に伝えてください。
もし退院後に発疹が出た場合には、医療機関に電話にてご連絡ください。
そう痒感等の過敏症状とその対処法
アレルギー反応の一つとして、そう痒感(かゆみ)などが出ることがあります。
アレルギー反応はどの薬でも起こりえますので、安全性が高いとされているミラクリッドでも起こる可能性はあります。
そう痒感があった場合には、ミラクリッドの投与を中止し、適切な処置を行う必要がありますので、すぐに近くの医療従事者に伝えてください。
もし退院後にそう痒感が出た場合には、医療機関に電話にてご連絡ください。
悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状とその対処法
ミラクリッドの投与により、気分が悪くなったり、吐いたり、下痢になったりと消化器系の副作用が出ることがあります。
基本的には軽度ですので、そのまま投与を続けても問題ありませんが、症状が重い場合には投与を中止し、副作用に対する処置を行うことになります。
消化器に作用する薬の投与などです。
気になる症状が出た場合には、医療従事者に伝えてください。
血管痛等の注射部位の異常とその対処法
ミラクリッドは、点滴で静脈内に投与する薬ですので、投与する際は注射部位に注射針が1、2時間刺さったままの状態になります。
そのため、注射部位付近の痛み、発赤、かゆみ感が出ることがあります。
また注射が血管外に漏れる場合にも血管痛が発生し、その場合は注射部位の変更が必要になります。
ですので、血管痛など注射部位周辺の痛みが出た場合には、すぐに近くの医療従事者に伝えてください。
点滴時だけでなく、点滴終了後にもこの副作用が出ることがありますので、その場合も医療従事者にお伝えください。
薬剤師からのワンポイントアドバイス
ミラクリッドは、基本的に入院中に点滴にて投与を受ける薬です。そのため副作用が発生しても、速やかにそして適切に対応してもらえるので安心できると思います。また、副作用は早期発見できると軽度で済みますので、上記の副作用の各症状に気付いた場合には、すぐに近くの医療従事者に伝えることをお勧めします。

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ミラクリッドが効くまでの時間
ミラクリッドは、基本的に500mLの輸液(生理食塩液、リンゲル液など)に希釈し、それを1~2時間かけて静脈内に点滴します。
ミラクリッドは、膵臓から血液中に流れ込んだ消化酵素を阻害する薬ですので、血液内で働きます。
投与方法が直接静脈内(血液中)に入る点滴ですので、投与を開始すると速やかに効果が出ると考えられます。
ミラクリッドの効果持続時間や使用間隔
投与後の血中濃度推移のグラフおよびデータ(濃度が半分になる時間が約40分)から考えると、点滴終了後から2~4時間効果が持続すると考えられます。
点滴中も効果がありますので、3~6時間効果が持続することが期待できます。
また、1日に1~3回の投与が認められていますので、投与方法によって8時間、12時間、24時間の使用間隔となります。
ミラクリッドが効かない!そんな時の対処法
ミラクリッドが効かない場合は、次の3つのパターンが考えられます。
1.消化酵素が関与していない症状の場合
ミラクリッドは、消化酵素を阻害することで効果を発揮します。
症状が消化酵素によるものでない場合には、抑えることができませんので、他の治療法に切り替える必要があります。
このような場合には、医師が適切に判断して対応しますので、任せてしまいましょう。
2.血液中に流入した消化酵素の量が多すぎて、ミラクリッドが不足する場合
この場合は、ミラクリッドを追加で投与する必要があります。
追加するかどうかは状態により異なりますので、医師の判断に任せましょう。
3.原因疾患が悪化している場合(急性循環不全の場合)
ミラクリッドは、あくまでもショック症状を抑える薬ですので、単独で原因の病態を治療することはできません。
原因疾患の治療が不足している場合には、ミラクリッドを投与しても効果がほとんど感じられない場合もあります。
例えば、出血性ショックの場合に、血液の不足が続いていれば、ミラクリッドの効果も限定的になります。
この場合は、先に輸血などにより血液不足を改善する必要があります。
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ミラクリッドの使用がおすすめできない人
禁忌
禁忌とは、ミラクリッドを使ってはいけない人のことです。
過去にミラクリッドの成分であるウリナスタチンに対し、過敏症・アレルギーが起こったことのある方が該当します。
このような方は、ミラクリッドを使ってはいけませんので、予め医師に伝えてください。
ミラクリッドを使用する場合には、本人の意識がない場合もありますので、ご家族の方も把握しておくと良いでしょう。
ミラクリッドの妊娠中・授乳中の使用
妊婦もしくは妊娠している可能性のある方に対する安全性は確立していませんので、お勧めできませんが、使用するかどうかは医師の判断になります。
医師が危険性よりも有効性の方が上回っていると判断した場合には、使用することになります。
また、授乳中の場合は、ミラクリッドを使用している間は授乳を中止してください。
ただ、病態として授乳できない状態の方が大半だと思います。
慎重投与
次の方はミラクリッドを慎重に投与する必要があります。
使用できますが、予め医師に伝えておくとその後の対応がスムーズです。
・薬物に対して過敏症がある方
・アレルギーになりやすい体質の方
・過去にウリナスタチンの投与を受けたことがある方
なお、腎臓病、肝臓病などの基礎疾患や合併症によるミラクリッドの効果および副作用に対する影響は、報告されていません。
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ミラクリッドとフサンを比較
ミラクリッドは、タンパク分解酵素阻害剤(多価・酵素阻害剤)に分類されますが、同じ仲間には、「ナファモスタットメシル酸塩(商品名:フサンなど)」、「ガベキサートメシル酸塩(商品名:エフオーワイなど)」、「カモスタットメシル酸塩(商品名:フオイパンなど)」があります。
これらの薬剤を比較してみます。
ミラクリッドとフサンの違い
これらの違いを表にまとめました。
薬剤(成分名) | 投与経路 | 効能・効果 | 抗トリプシン作用
(消化酵素の働きを阻害する) |
抗凝血作用 (血液を固まりにくくする) |
ミラクリッド | 点滴静注 | 急性膵炎
急性循環不全など |
○ | |
フサン
(ナファモスタットメシル酸塩) |
点滴静注
体外循環 |
膵炎の急性症状
DICなど |
○ | ○ |
エフオーワイ
(ガベキサートメシル酸塩) |
点滴静注 | DIC | ○ | ○ |
フオイパン
(カモスタットメシル酸塩) |
経口 | 慢性膵炎の急性症状
術後逆流性食道炎 |
○ | ○ |
ミラクリッドは、抗トリプシン作用を持っていますが、抗凝血作用はありませんので、この点がフサンやエフオーワイ、フオイパンとの違いになります。
例えば、臓器からの出血や外傷による出血がある時には、血液が固まらないといけませんので、そういう場合には、抗凝血作用のほとんどないミラクリッドが適しています。
一方、ショックの時にDICが合併している場合には、抗凝血作用も必要となりますので、フサンやエフオーワイが使用されることになります。
また、フオイパンは唯一経口で治療できるタンパク質分解酵素阻害剤ですので、入院しなくても治療が可能です。
そのため、慢性膵炎など自宅で治療する場合に適しています。
DICとは、「汎発性血管内血液凝固症」のことです。
通常、血液は血管内で固まることはありません。全身を循環して、酸素や栄養を送り届けるためです。
ただ、血液の凝固機能に異常をきたしてしまう何かの病気や障害が発生すると、血管内でも凝固して、それが臓器に詰まってしまい、臓器にダメージを与えることになります。
この異常な状態のことを『DIC』と呼びます。
この時に血液が固まるのを防ぐ目的で、フサンやエフオーワイが点滴静脈内投与で用いられます。
ミラクリッドとフサンの併用について
ミラクリッドとフサンの併用が考えられる病態としては、急性膵炎もしくは慢性膵炎の急性増悪期、DICを併発したショック時となります。
膵炎では、症状が軽い場合には、それぞれどちらかの使用で問題ないとされています。
一方、重度の膵炎では、単剤の使用量では不十分である場合もありますし、DICを併発したショック時ではそれぞれの特徴が効果に繋がりますので、ミラクリッドとフサンが併用されることもあるようです。
また、同様に病態・症状によっては、ミラクリッドとエフオーワイが併用されることもあるようです。
なお、これらの有効性については、現時点では症例数が不十分であり、エビデンスが明確ではないため、質の高い臨床研究が必要とされています。
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ミラクリッドの使用上の注意
ミラクリッドは、DICを併発したショック時には、エフオーワイ(ガベキサートメシル酸塩)と併用されることがありますが、この二つの注射薬を混ぜてしまうと薬の性質が変わってしまいます。
そのため、ミラクリッド注射液とガベキサートメシル酸塩注射液を混ぜることは、避ける必要があります。
また、グロブリン製剤も同様に混ぜると薬の性質が変わるため、混合を避ける必要があります。
ミラクリッドの飲み合わせに注意!
ミラクリッドは、これまでに飲み合わせや併用した場合の相互作用がないとされています(これまでに報告がありません)。
他の薬との併用があっても問題なく使える薬です。
ミラクリッドは市販で手に入る?
ミラクリッドは、病院にて点滴で静脈内投与する薬ですので、処方せん医薬品(医師の処方が必要)のみとなっています。
従って、市販薬としては手に入りません。
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ミラクリッドに関するQ&A
Q&A
何歳から使用してもいいのですか?
15歳未満の方に対する投与は、使用経験がわずかであり、安全性が確立していませんので、使用されることは特別な場合を除きほとんどないでしょう。
そのため、一般的には15歳から使用できるということになります。
妊娠中や授乳中の体への影響や、子供への影響が心配されますが?
妊婦もしくは妊娠している可能性のある方に対する安全性は確立していませんので、胎児へ影響する可能性も否定できません。
そのため、使用するかどうかは医師の判断になり、医師が危険性よりも有効性の方が上回っていると判断した場合には、使用することになります。
また、授乳中の場合は、胎児へ影響を与える可能性がありますので、ミラクリッドを使用している間は授乳を中止する必要があります。
ミラクリッドを市販で買うことができますか?価格に違いがありますか?
ミラクリッドは、市販薬として発売されていませんので、市販で買うことはできません。
病院のみで使うことが可能です。
ミラクリッドの病院処方薬と市販薬では成分に違い等ありますか?
ミラクリッドは、市販薬として発売されていませんので、病院処方薬しかありません。
院処方薬には、ウリナスタチンが有効成分として入っています。
ミラクリッドを使って車の運転をしても問題ありませんか?
眠気や判断力低下などの副作用はありませんので(脳への影響はほとんどない)、薬自体は問題ありません。
ただ、ミラクリッドを使う状態では、入院が必要な重症の場合が大半ですので、基本的には投与後に車を運転することはないでしょう。
ミラクリッドと一緒に飲み合わせてはいけない薬はありますか?
ミラクリッドは、これまでに相互作用の報告がありませんので、一緒に飲んだり使ってはいけない薬はありません。
ミラクリッドのジェネリック医薬品はありますか?
現在のところ、ジェネリック医薬品は発売されていません。
持田製薬株式会社が製造、発売している先発品のミラクリッドのみです。
ミラクリッドを使うときはお酒を控えた方がいいですか?
ミラクリッドを使用する場合は、重症ですし、入院していることが大半ですので、そもそもお酒を飲むことが無いと考えられます。
また、膵炎の治療では、飲食を止める(絶飲食)ことが多いので、その間はお酒どころか何も飲めません。
フオイパン、フサンはミラクリッドと効果が違うものですか?
これらの薬は、膵炎に使うという点では同じですが、それぞれの特徴に違いがあります。
特徴と効果の違いについては、上記にまとめていますので、ご覧ください。

薬剤師 まとめ
ミラクリッドは、急性すい炎や急性循環不全など重篤な病態に効果があり、副作用の発現率もかなり少ない薬ですので、非常に有用な薬です。医師の判断により、病院で静脈内点滴により使用する薬です。そのため、患者側の知識は不要だと思われるかもしれませんが、薬の特徴を理解することで効果を高めることに繋がりますし、副作用に早めに気付いて対応できますので、知っておいて損はありません。今回の内容が、ミラクリッドの理解に繋がれば幸いです。
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